今回のお題は「ボケの大きさ」についてです。
ボケの大きい写真を撮るにはいくつかの方法がありますが、基本は次の4つだと思います:
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- F ナンバーを小さくする
- 焦点距離の長いレンズを使う
- ピントをより手前の被写体に合わせる
- センサーサイズの大きいカメラを使う
1つずつ説明していきましょう。
1. F ナンバーを小さくする
F ナンバーが小さいほどよくボケるというのは有名な話ですが、改めて図を用いて説明してみます。
図を見ると、口径 D が大きい(赤色の光線)ほど集光点への最大入射角度が大きく、そのため、ピントが合っていないときに撮像素子にできるボケの面積がより大きくなっていることがわかります。
一方、 F ナンバーとは、焦点距離 f を 口径 D で割った値ですので、口径 D が大きくなると F ナンバーは小さくなります。
したがって、絞りを開くと F ナンバーが小さくなり、最大入射角度が大きくなることによってボケが大きくなる、ということになります。
2. 焦点距離の長いレンズを使う
こちらも望遠レンズの方がよくボケるというので有名な話です。
さて、ここで以降の説明に非常に便利な「縦倍率 α」という概念を紹介したいと思います。
下の図を見てみてください。
被写体がピント面から光軸方向に Δx だけズレた位置にあるとき(赤い下矢印↓)、レンズによってできる像もそれに合わせて撮像素子のピント面から Δx’ だけズレた位置にできてしまいます(赤い上矢印↑)。
このとき、 Δx’ は Δx の何倍かという意味をもつ値が縦倍率 α です。
縦倍率 α が大きいほど、ピント面からのズレ Δx に対して撮像素子側でのズレ Δx’ が大きくなりますが、図をよく見てみると、その Δx’ が大きいほど撮像素子面にできるボケが大きくなることがわかります。
換言すれば、縦倍率 α が大きいほど被写界深度が浅く、ボケが大きくなると言えます。
ここでもうひとつ説明しておくべき大切な関係に、「縦倍率 α は、物体と像の倍率(横倍率) β の二乗に等しい」というのがあります。
$$\alpha = \beta^{2}$$
つまり、横倍率 β が大きいレンズほど、ボケはその二乗分大きくなるということです。
ここでいう横倍率 β が大きいレンズというのが、すなわち焦点距離の長いレンズということになります。
例えば、遠くのビルを広角レンズと望遠レンズで写すことを考えてみれば、望遠レンズのほうがビルが大きく写りますよね。それはつまり、焦点距離の長いレンズのほうが横倍率 β が大きいということです。
したがって、焦点距離の長いレンズほど横倍率 β が大きく、縦倍率 α はその二乗分大きくなるため、よりボケやすくなるということになります。
3. ピントをより手前の被写体に合わせる
これも縦倍率を考えればすぐに理解できます。
例えば花を撮る時に、ぐっと近づいて撮った方が写真には大きく写ります。マクロレンズを想像するとわかりやすいかと思います。
実際にそこにある花が大きくなったりするわけではないので、これは横倍率 β が大きくなっているということにほかなりません。
したがって、縦倍率 α はその二乗分大きくなりますので、寄れば寄るほど(より手前にピントを合わせるほど)ボケは大きくなるということになります。
厳密なことを言えば、実際には寄れば寄るほど F ナンバー(正確には、実効 F ナンバー)は大きくなるため、これはボケが小さくなる方向に作用します。
そのため、どちらの作用がより支配的かという話になるのですが、縦倍率の変化は二乗分の効果があるため、一般にはボケが大きくなる作用のほうが強く働くと考えられます。
4. センサーサイズの大きいカメラを使う
これもフルサイズの方が APS-C よりボケるというので有名な話です。
…が、厳密にはセンサーサイズでボケの大きさが変わるわけではないので、少し語弊があります。
例えばフルサイズ用の 50mm f/1.4 のレンズを APS-C 機に付けたとしても、レンズの開放 F ナンバーが f/1.4 で焦点距離が 50mm であることに変わりありません。
つまり 1. にも 2. にも当てはまらないわけですから、したがってボケの大きさも変わりません。
直感的に言えば、フルサイズで撮った写真をクロップ(トリミング)しているだけなので変わりません、と言った方がわかりやすいかもしれません。
では、なぜセンサーサイズの大きい方がボケると言われるかというと、前提として「そのセンサーサイズで撮れる画角を揃えると」という条件があるからです。
(誰かの写真を眺めるときに、撮ったカメラのセンサーサイズなんて一般にはわからないですし、もっと言えば関係ないですからね。)
同じ画角を撮ろうと思うと、センサーサイズの小さいカメラはより焦点距離の短いレンズを使うことになります。
すると 2. の話が適用できて、横倍率が小さい → 縦倍率が小さい → ボケが小さい、となるわけです。
いかがだったでしょうか。
縦倍率という概念を導入することによって、 絞りを開く以外にどうやったらボケが大きくなるかを、比較的シンプルに説明することができたのではないでしょうか。
次こそは「ボケの質」について語る記事が書けたらいいなぁなんて思っているのですが、どう書いたものかと悩み始めるとなかなか筆が進みません。
ですので、あまり期待せず見守っていただければ幸いです。
それでは今回はこのへんで。
ではでは。
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