全国1億3千万人のカメクラの皆さまこんにちは!
最近 Twitter で「カメクラって何の略?」→「カメラクラッシャー^^」って流れを見かけて、カメクラという言葉の好感度がちょこっと上昇しました。
さて今回もレンズ沼を気持ちよく泳いでいるような人たちの目線で、レンズについて熱く語っていこうと思います。
今日のお題は「レンズを読む〜良いボケ・悪いボケってどんなボケ〜」です。
正月休み使って書くぞー!と昨年末に意気込んで、そのまま放置してたやつですね。
正直、無かったことにしようと思ってた
1. 良いボケ・悪いボケは、ボケの輪郭で決まる
考えてみると、ボケの善し悪しを形容する言葉ってけっこう色々あります。
・きれい
・うるさい
・やわらかい
・硬い
・ざわつく
・とろける
・芯のある
・連続した/なだらかな
・立体感のある , etc…
ちょっと考えただけでもこれだけたくさん出てきます。
どれも雑誌やネットのレビュー記事にもよく並んでいる言葉です。
とはいえ、ただ字面だけ読んでいても「結局どういうのが良いボケなの?」ってのはイマイチよくわからないですよね。
なのでやっぱり最初は言葉で説明するよりも、絵とか写真とかで見ていく方がわかりやすくていいと思うのです。
人間、大抵のことは実際に見た方が得られる情報量って多いですからね。
“好きなタイプは性格が良い人です” っていうのに “まず顔面が好みなら” っていう不文律があるのと同じです。
同じじゃないと思うが
1.1. 基本的なボケのタイプは3種類
ボケの特徴は「星のように小さな光がボケた時にどういう描写になるか」で、おおよそ次の3種類にタイプ分けできます。
これさえ分かればもうボケなんて怖くありません。
ボケ最高。ボケしか勝たん。
ということで、その3種類のボケの絵を用意してみました。
一応、お絵描きではなく表計算ソフトと画像処理ソフトを駆使して作ってます。
ただこれがもう慣れないことするもんだから、しんどみ深すぎてぴえん超えてぱおんでした。(古)
なんでこんなの必死になって作ってんだ?って我に返る瞬間が何回かあった

光が周辺に集まる
輪郭は明瞭

光が均質に広がる
輪郭は比較的明瞭

光が中心ほど強い
輪郭は不明瞭
3つのタイプとは、上の画像のような (1) エッジタイプ、(2) フラットタイプ、(3) コアタイプです。
名前は今僕が思い付きで決めました。All rights reserved です。
もう少し詳しく説明します。
高校の授業だったら「ここテストに出るからね」と前置きして説明するくらい大事なところ。
(1) エッジタイプ:ボケの周辺に光が集まるのが特徴。輪郭が強く、黒背景との境界が明瞭。バブルボケの原因にも。
(2) フラットタイプ:光が均質に広がるのが特徴。背景との境界は比較的明瞭。収差が少ないキレキレ系レンズに多い。
(3) コアタイプ:ボケの中心ほど光が集まり、周辺ほど少ないのが特徴。背景との境界は不明瞭。ボケに特化したレンズでないとなかなかお目にかかれない希少なタイプ。
(1) や (3) のタイプでも、ボケが白飛びしちゃうと全部同じ値=フラットになって、ほぼ (2) と変わらなくなってしまいます。
ボケ味を確認したいとか、オールドレンズらしいボケを活かしたいとかって場合には、ボケが白飛びしないように撮るというのが実はけっこー大事なテクニックです。
1.2. タイプによってボケはどう違う?
3つのタイプに分けたからには、当然タイプによってボケ方が全然違ってきます。
ではどれだけボケに違いがあるか、簡単なシミュレーションで見てみましょう。
ボケで悪さをする代表選手といえば木の枝なので、それを模した画像を用意しました。

枝って写真をよく見てみると、片側の光が当たってる方はすごく明るくて、逆に反対側はものすごく暗いのです。
では、この画像をさっきの3つのタイプでそれぞれボカしてみます。
コンボリューションの呪文を唱えた!(説明しんどいので省略)



(1) エッジタイプは、教科書どおりの二線ボケです。
(2) フラットタイプはどうでしょう。なんか想像してたのと違うなとか思いませんでした?
実は収差が少ないからといってボケが良くなるとは限らないのです。(ここ重要)
(3) コアタイプは、とろけるようでかつ芯のあるボケです。
例えば僕たちが「机の上に本がある」と認識できるのは、机と本の間に境界線=輪郭がある時です。
輪郭が強いというのは、言い換えれば狭い領域で明るさが大きく変化する(輝度勾配が大きい)ということ。
逆に言えば、輪郭が強いボケということは、そこに何かがあると認識してしまう → そこに意識が向いてしまいやすい → 気が散りやすい → うるさいボケになるということです。
(1) エッジタイプのボケは、ここでも輪郭線が強くしかも二重に出ているため、ピント面と同じくらい意識を引き付けてしまう=うるさいボケになっています。
(2) フラットタイプのボケは、ボケどうしが重ならない両端で輪郭が目立つ場合がありますが、(1) ほどうるさいとは言えません。
ただもうひとつ大事なことは、このボケからもとが白黒線だったと思える人は少なそうだということ。これは (3) と異なる点のひとつです。
(3) コアタイプのボケは、白黒の変化がゆったりなだらかに広がっていて輪郭が一切なく(とろけるようなボケ)、さらにもとが白黒線だったというのもしっかり伝わるような描写です(芯のあるボケ)。
「良いボケ=ピント面の描写を邪魔しないやわらかい描写」と定義すると、(1) がもっとも悪いボケで、(3) がもっとも良いボケということになります。
ただ、今回はわかりやすさを優先してわざと厳しい条件でシミュレーションしてますし、それに実際のレンズでは (1) と (3) が混在していたり、(2) と (3) の中間だったり、絞ると別のタイプに変化したりするので、単純にどれかひとつに当てはまるワケじゃないという点には注意が必要です。
ちなみに、最近のレンズメーカー各社のトレンドとしては「とりあえず (2) を目指す」(値段やサイズ等々の制約が厳しくなければ)ってのが定石で、そのうえでレビューではまともに評価されない (3) のようなボケとのバランスをどこまでこだわるかが各社の矜持に委ねられているような感じに見受けられます。
ボケに対するユーザーやレビュアー側のリテラシーが足りていないと、メーカーとしては点数が稼ぎやすい無収差レンズに重心をかけてしまうのも致し方ないことかなと個人的には思います。
XF50mmF1.0 R WR がワーストレンズになるような世の中ですからね。ポイズン。
ここでは「良いボケ=ピント面の描写を邪魔しないやわらかい描写」と定義しています。
(これ自体はおそらくそれなりにコンセンサスは得られるハズ)
ただひとつだけ強調しておきたいのは、「良いボケ」と好きなボケはまったく別のもので、「悪いボケ」がダメなボケとは限らないということです。
僕自身ガチャガチャしたボケを扱うのはすごく好きですし、ボケがやわらかいレンズにだってクセは残っていたりします。
そういうレンズこそ、また使いこなすのが楽しいものです。
僕には「悪いボケ」を使えないボケとこき下ろすような気持ちは一切ないですし、みなさんにも持たないでほしいと思っています。
Summary
- ボケの輪郭が強いほど、うるさいボケの原因になる
- ボケの輪郭が弱いほど、やわらかく芯のあるボケになる
- 収差が少ないからといってボケが良くなるわけではない
2. 写真でボケの違いを理解しよう
そろそろ「もう理屈はたくさんだよ!」って感じかと思うので、ここからは実際の写真を見ていくことにしましょう。
写真を見て違いがわかるようになると、
・レンズの個性に合わせて使い方をオプティマイズできるようになる
・ネットや雑誌の作例だけでも大体のボケ味の特徴がつかめるようになる
みたいな恩恵もありますので、たくさん見比べて自分のものにしていくことをオススメしますよ!
2.1. (1) エッジタイプのボケ
(1) エッジタイプはボケの輪郭が強いため、うるさいボケになりがちです。
ボケはじめはブレたようなボケに、さらにボケると二線ボケになる傾向があります。
高コントラストで入り組んだものではザワザワしたボケになりますね。
個人的に特徴的だと思うのが、白色や明るい線が光の玉が走った軌跡ようなボケになること。
これはけっこう悪目立ちすることが多いです。
★作例 1-1


ボケ量が小さいときは、ブルッと震えた感じのブレたボケ描写に。
★作例 1-2


二線ボケによって数字の8が二つに分離して浮き上がったように見える。
白線はやはり光の玉が走った軌跡のようなボケに。
★作例1-3


かなり酷い例。茎は二線ボケ、花弁はエッジタイプの強い輪郭。
★作例1-4


車のフレーム金属が光の玉が走った軌跡のようなボケに。
★作例1-5


水彩絵の具で描いたような描写。
2.2. (2) フラットタイプのボケ
(2) フラットタイプでは、基本的にきれいなボケ描写が得られます。
とろけるようなボケとはすこし違って、どちらかと言えば “硬い” に近い場合も多いです。
ただ収差が少なくピント面もシャープなため、写真全体としては透き通るような印象の描写になります。
最近のレンズだと大抵はこのタイプにカテゴライズされます。
そのなかでエッジ寄りのフラットタイプとか、コア寄りのフラットタイプとかがある感じ。
★作例 2-1


輪郭が明瞭なぶん若干硬く感じることも。
★作例 2-2


悪い条件が重なると、多少うるさく感じることもある。
★作例 2-3


うるさくはないが、等幅にボケていて芯はない。
★作例2-4


フラットタイプだが、若干エッジ寄りかも。
★作例2-5


フラットタイプとしては比較的やわらかいバランス。
★もっと作例が見たい人向けリンク集
SIGMA(シグマ) 65mm F2 DG DN | Contemporary 実写レビュー | フォトヨドバシ
http://photo.yodobashi.com/sony/lens/65_f2dgdncontemporary/
SIGMA(シグマ) 85mm F1.4 DG DN | Art 実写レビュー | フォトヨドバシ
http://photo.yodobashi.com/leica/lens/85_f14dgdn_art/
2.3. (3) コアタイプのボケ
(3) コアタイプのボケは、とにかくやわらかくなります。
さらにボケに芯があるので、大きくボケても何がボケているかわかります。
ピント面の描写を邪魔しないなうえに情報量も落ちにくい、まさに理想的なボケと言えます。
ただ収差をあえて残してやわらかくしている場合、条件によってはボケが暴れることも多々。
個人的には、光が散らばるようなボケという印象で、一言で表現するならマットな質感のボケです。
この感覚を掴んでもらうのがこの投稿の一番の目的と言っても過言ではないです。
タイプ (2) のキラキラボケとタイプ (3) のマットボケが区別できれば、立派なボケマスターです。
★作例 3-1


パウダーファンデーションのような質感のマットなボケ。
大きくボケても髪型、服装、スマホを持っていることまでわかる。

比較してみると、芯のあるボケという意味がよくわかる。
★作例 3-2


ピント面から次第にボケていく間に一切の輪郭が現れない、まさにとろけるようなボケ。
★作例3-3


やわらかくやさしいボケ味なので、ノスタルジックな雰囲気が出る。
★作例3-4


ピント面から奥のボケの輪郭がとろけるようにやわらかい。
★作例3-5


キラキラしそうなシーンでも、やはりマットなやわらかさで描く。
★もっと作例が見たい人向けリンク集
AF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gレビュー!購入した喜びに震える|すけこむブログ
https://blog.sukecom.net/2015/11/01/257/
FUJIFILM XF56mmF1.2 R APDを徹底解説。作例からレビューまで | ONE SCENE(ワンシーン)
https://one-scene.com/products/208
柔らかいボケ味を生み出す「富士フイルム フジノンレンズ XF56mmF1.2 R APD」を徹底検証する | 徹底検証・高画素デジタル時代のレンズ | Shuffle by COMMERCIAL PHOTO
http://shuffle.genkosha.com/products/lens/9669.html
2.4. 収差や口径食が乗ったボケ
ここまでの3つのタイプというのは、いわゆる球面収差やアポダイゼーションフィルタの効果だけを考えたものでした。
しかし現実のレンズには、球面収差のほかにもコマ収差、像面湾曲、非点収差、歪曲収差、色収差なども残っています。
さらには口径食やパースペクティブなどもボケ描写に影響します。
いわゆるボケにクセがあるレンズというのは、そのような収差がボケに乗っかってくるものと考えてほぼ差し支えないです。
これが実に厄介。
つまりたとえ写真の中央では (3) コアタイプであったとしても、周辺ではボケに輪郭が出たりボケが流れたりすれば、結局は写真の大部分がうるさいボケになってしまうわけです。
★作例 4-1


写真の中心側(内側)に輪郭があり、周辺側(外側)に筆で払ったようなボケ。周辺ほどひどくなる。
★作例 4-2


こちらは逆に外側に輪郭、内側に筆で払ったようなボケ。
★作例4-3


目が回るわ!ってくらい外に流れて大暴れ。
★作例4-4


中央が柔らかくても周辺ではフラットタイプ気味。
さらに内に筆を払うようなボケも出てくる。
★作例4-5


明るい空を背景にした木の葉は暴れが目立ちやすい。
Summary
- フラットタイプはキラキラ透き通るキレイ系のボケ
- コアタイプは光の散らばったマットで芯のあるボケ
- 収差や口径食などが乗るとボケは暴れやすい
3. おわりに
だいぶ長くなっちゃったのですが、実は当初書こうと思っていた半分くらいしか書けませんでした^^;
たとえば
・手持ちのレンズでボケタイプを調べる方法
・球面収差でボケタイプが変わる理屈
・前ボケと後ボケは別世界
・ピント位置からの距離にともないボケタイプは変化する
・ぐるぐるボケって本当に非点収差が原因?
・玉ねぎボケとレモンボケだけでボケを語るな , etc…
このあたりについては、また気が向いたら「レンズを読む」シリーズとして追加していけたらいいかなと。
言うだけはタダなんで言っておく
ボケを写真表現と捉える文化は日本から始まったと言われ、英語でも Bokeh と呼ばれるというのは有名な話です。
だからこそせめて僕たちくらいは、おそらくやるだけ損というのを承知の上でメーカーがこだわって設計したボケ性能を正当に評価してあげたいと思ってしまうのです。
皆さんのこれからのレンズ沼ライフがより充実したものになることを祈って、ひいてはレンズメーカーがボケ性能重視に積極的になって僕の好きな感じのレンズがたくさん出てくることを祈って(こっちが本音)、今回はこのへんで終わりにしたいと思います。
ではでは。
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