僕の下ろしたての白いスニーカーは、駅のプラットホームで見ず知らずの女に踏み抜かれて、あっという間に傷物になってしまった。
シチュエーションがあまりに最悪すぎで、僕はショックでしばらくの間 放心していた ―――
――― その駅で電車を降りると、多くの乗客が我先にと階段へ殺到した。通路の幅が乗降客の数にまったく見合っていない心許ない階段だ。
都会の駅の階段には、きまって人の上り下りの向きを誘導するための矢印がある。
そしてこれもきまって、僕たちが残した余白を追越車線か何かのように自分の都合に合わせて解釈する馬鹿がたくさんいる。
この日も、僕を無理やり追い抜いてそこに駆け込んで行った女がいた。
そこへ駆け上ってきた男に出合い頭に突き飛ばされ、後ろ向きにたたらを踏んだその女の足は、僕の左足に振り下ろされた。
女の全体重を乗せた一撃がヒールじゃなかっただけ、まだマシだったかもしれない。
その女は僕に一瞥すらくれることもなく、すぐに逆走レーンへと再び特攻をかけてどこかへ行ってしまった ―――
――― はっきり言って、僕は階段の矢印が読めない人も、人を突き飛ばして駆け込み乗車していく人も、軽蔑している。
そんな馬鹿どもの愚かなふるまいの結果が、まだ二回か三回しか履いていない僕のスニーカーについた黒い三本の線だと思うと、今でも到底許せそうにない。
できるなら今からでも捕まえて、スニーカーに謝ってほしい。
とはいえ、白いスニーカーを履くというのはそういうことなのかもしれない。
白スニーカーを履くには覚悟が必要だ。この世すべての汚れも理不尽も、黒でできている。