フルサイズセンサー搭載のレンズ一体型コンパクトカメラ SONY RX1R III 。9 年半のブランクから唐突に現れた RX1 シリーズの新モデル。驚きの価格設定(悪い意味で)にはさすがの僕も日和りかけたけど、買うかどうかで悩むなんてことは一旦買ってみてから考えればいいのだ。
ファーストタッチで、わ、と声が零れる。想像していたよりずっと軽い。ふわりと持ち上がって、すっぽり手のなかに収まる。それでいてちゃんと写真機だ。ファインダーを覗いて、シャッターが切れる。この華奢なボディのなかに、フルサイズのセンサー、大口径レンズ、バッテリー、EVF 、背面液晶パネルが詰め込まれている。当然それ以外にも各種インターフェース、制御基板が場所の取り合いをしているはずだ。偏執的なこだわりを感じる。きっとこの暗箱には、ソニーのものづくりに携わる人たちのロマンと矜持が詰まっている。それだけであらゆるネガティブな要素を振り切って優勝できてしまう。そういうカメラだ。
レンズは RX1 シリーズでお馴染みの Sonnar T* 2/35 。スナップといえば 28 mm というイメージもあるけど、やはり扱いやすさは 35 mm が断然勝る。目で見たものが目で見た通りにフレームに収まる。そういう自然な画角。レンズに自分の目を合わせる必要がないから、心も身軽になれる。
このレンズ、描写もとても良い。開放からディテールまで緻密に写るし、それでいて筆遣いが柔らかい。奥行き方向へなだらかに変化していくので、写真に厚みが生まれる。自分の目で見たものを、わざわざレンズを通して焼き直すだけの価値がある。ただし歪曲収差は目に見えて残っているので、カメラの補正機能はなるべく使ったほうがいい。
レンズに絞り環があるのも嬉しい。クリック感も心地よい。レンズは右手のダイヤルじゃなくて、直接左手で触れて扱うことによって、人生の幸福度が上がる。フォーカスリングのトルクも重めで良い。さすがにコシナのレンズのフォーカスリングほどではないけど。ちょっとガリガリする。
サムグリップはマストバイだと思う。ホールドの心地よさも安心感も段違い。跳ね上げれば MENU ボタンとダイヤルにアクセスできるのも気が利いてる。片手持ちの状態でも親指だけで跳ね上げは可能。ただし AF-ON ボタンがすこし押しづらくなるのはご愛嬌。ボディケースは付けてないけど、右手小指をボディ下側に潜り込ませて安定させているから必要性は感じない。どちらかと言うとかっこいいレザーケースが出たら欲しい。
もちろん全部が全部良いわけじゃない。というか、むしろ細かい不満点は多い。値付けのことを考えればなおさら。
まずシャッター。開放時シャッター速度上限が 1/2,000 秒、ISO 感度も低感度側 100 なので明るいところすぐサチる。メカと電子シャッターの自動切り換え機能も無い。仮にあったとしても今度は電子シャッターの幕速(遅い)がネックだ。せっかくレンズの描写の良くても、ボディが足を引っ張って活かしきれない場面が結構ある。センサー選択とフィジカル制約のしわ寄せが直接的にあらわれている部分だと思う。
手振れ補正機構。これも非搭載。僕には必須というほどでもないが。コンセプトと設計制約上の割り切りも理解できる。でも当然暗いところにはデリケートになる。明るいところにも暗いところにもカメラ自身の環境適応力は低いので、僕たちがいつもより気をつかって対処する必要がある。
有効画素数。6100 万画素。人によるのだろうけど(おそらくクロップして使いたい人は結構いる)、僕の使い方ではだいぶ持て余している。ただしセンサーのダイナミックレンジは優秀だし、モアレも出る時は出るものなので、ファイルサイズ以外でとくに問題にはならない。
ファインダー。とても悪い。モニターを拡大表示して見せられてる感じ。フレアの処理が甘いのかな。コントラストも色も背面液晶とだいぶ違って見える。平成時代の EVF 。窓も狭いからケラレやすい。とはいえ、ボディサイズを考えれば積んでいるだけで凄い。受け入れる心が必要。
背面液晶モニター。チルトしない。もちろんしてくれた方がうれしいけど、その分厚くなるくらいなら無くたっていい。もしレンズが f = 28 mm だったら必要だったかも(パースに気をつかうから)。
フォーカスモード。AF だとうまく合わないこともあるので、状況に応じて MF も使いたいのだけど、その操作性(システム)がたいへん悪い。
・AF-S、AF-C では、なぜかフォーカスリングが封印される。
・AF-C では、なぜかピント拡大が封印される。
・半押し AF では、ピント拡大後に全体確認が実質不可。
→ ということで、「フォーカスモード:DMF 、半押し AF:切、C1:ピント拡大」で使ってる。難点はサムグリップで AF-ON ボタンが押しにくいところ。
ボディ前側ダイヤル。非搭載。サムグリップで握っていると後ろ側ダイヤルが使いにくいので、あったら嬉しかったな。とはいえ仕込むのはスペース的に厳しいか。
オートホワイトバランス。弱い。自然な白が出ない。漂白されたような白。雰囲気優先設定にしても雰囲気など残らない。
発熱と電源スイッチ。結構すぐにボディが熱を持つので、こまめに電源 ON / OFF を心掛ける必要がある。ただし起動速度はワンテンポ遅い。あと地味に電源スイッチの凹凸加工が痛い。ソニーってこういう加工が好きなイメージがある。α7 シリーズのマルチセレクターとか。よく触る部分についてはもうすこし触り心地に配慮してほしい。
電子水準器。表示がとてもうるさい。邪魔。電子水準器自体はほかのカメラでは常用している機能だけど、このカメラでは OFF にしている。
レンズキャップ。ちょっと全体の雰囲気にマッチしてないかな、と思う。マグネットになっているのは付け外しが楽でとても良い感じ。
記録媒体。SD( UHS-I / II 対応)カード 。令和7年にこの価格帯で SD か、とは思った。
色々書いちゃったけど、このサイズ感でありながらちゃんと構えて写真が撮れるというところにこそ、このカメラの価値はある。不満があるのは当然で、それでもなお愛すべきカメラだ。
正直軽い気持ちで人におすすめできるカメラじゃないけど、僕にとっては最高のカメラが来ちゃった気がする。Z 7 以来のワクワク感がある。たくさん持ち出して、ボロボロになるまで長く付き合い続けたい。