放談 2

 写真を撮り歩いたあとによく立ち寄るスーパーがある。そこでその日の夕食用に買い物をして、いつものように〆としてビール売り場に足を向けた。すると、めずらしくこの日は先客がいた。おそらく 20 代くらいの男女2人のカップルだ。ちょうど僕がいつも物色するあたりの位置で、どうやらビール選びに難儀しているらしい。

 このスーパーの良いところは、ビール売り場に変わり種の銘柄をつねに欠かさず並べてくれているところだ。その時々で国内のクラフトビールだったり海外からの輸入物だったり、セレクトは店長の気まぐれ。もちろんそのぶん値段もけっこうお高めだ。ただ幸いなことに、僕はビールは大好きだけど文字通り嗜む程度の量くらいしか飲まないので、美味しいのを1缶っていうスタイルがちょうどええ。心の2丁拳銃もそう言ってくれている。聞かれてないのに答えると、最近はべたに Hazy IPA にハマっている。

 とりあえず僕もビールがほしいので、カップルの彼氏側の隣に並んでみた。耳を通り過ぎていく断片的な2人の会話をまとめると、どうやら以前買って美味しかった銘柄が無くなってしまったようで困っているらしい。...いや、そうなんだよね。ここの変わり種枠のビールって2~3週くらいで置き換わるし、また同じ銘柄が並ぶことも僕の記憶のなかではない。ざんねーん!心のギター侍をかき鳴らしながら、僕も今日並んでいるビールに目をやる。ポジションが悪いのでちょっと見にくかったのだけど、右から2つめのビールが気になってきた。よし、今日はこれにしよう。そう思っていまにも手を伸ばそうとしたそのとき、カップルの彼女が「これ良さそう~」と言ってまさにその銘柄を手に取った。あぶねえ。もうすこしで知らんカップルの彼女さんとラブコメみたいな展開を彼氏さんの前でするところだった。本当にあぶねえ。

 すこし眺めてまた商品棚の列には戻したのだけど、どれを買うかはまだしばらくは決まりそうにないらしく、2人であーでもないこーでもない話しながら悩み続けている。...だめだ。こうなると僕みたいなチー牛にはとても横から入っていく勇気なんてない。どうしよう。買うなら買うではやく決めて立ち去ってくれないなーなんて思っていたら、最悪なことにその銘柄の残弾数が2つしかないということにそこで気がついてしまった。ああ、おしめえだ。あきらめたからにはここで試合終了です。

 とはいえ横に並んできたのに何も買っていかないのもなんか変な人に思われそうだし、かといってカップルの正面で話題になっている残機2のビールを横から手を伸ばしてかっさらっていくなんて僕には絶対無理。...で結局、その銘柄の隣に並んでいたビールを次点でチョイスして、そそくさとその空間から離脱した。まあ今日は仕方がない。運が無かった。望むらくは、僕がいいなと思ったその銘柄をぜひ2人でなかよく1缶ずつ買って帰って、2人でしっぽり飲んでくれたまへ。

 次点で選んだビールは、翌日の晩酌に飲んだ。とても美味しかった。

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NIKON Z f
NIKON AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G